Equity in Permanency
「公平なパーマネンシー保障」
2023年10月、International Social Service(ISS)は、オーストラリア支部、カナダ支部、アメリカ支部、そして日本支部をはじめとするメンバーによって策定した「公平なパーマネンシー保障」に関する国際的提言を発表しました。ここでは、子どもにとって最適な長期的利益のために、家族・親族による養育を優先する子どもの保護について、7つの原則と実践について提言しています。この原則は、世界中のISS支部やメンバーたちによる歴史的な実践を通して、国境を越えて移動する子どもと家族の最善の利益を目指すために策定されました。
2024年3月19日(ヨーロッパ/アメリカ/中東エリア)・3月21日(アジア/パシフィックエリア)、ISS支部メンバーによる「公平なパーマネンシー保障」の提言・実践を紹介するウェビナーを開催しました。
International Social Service(ISS)は、第一次世界大戦後に戦場となった欧州で、国境を越えて離散した家族や難民などの問題が発生したのを受けて、1924年、家族や子どもの福祉を守るために設立されました。
ISS in essence
- 1924年に設立され、125カ国に132のメンバーを擁する専門的な福祉の国際ネットワーク
- 約100年間、子どもと家族のニーズに対応
- 法律と政策の立案、およびアドボカシー活動に貢献
- ハーグ国際私法会議(HCCH)およびその中央当局と長年にわたる緊密な協力関係を持つ
- ジュネーブを拠点とするISS事務局は、家族を奪われた子どもの権利のための国際レファレンスセンター(International Reference Centre for the Rights of Children deprived of their family (ISS/IRC))を擁し、30年以上にわたり子どもの保護・代替養育・養子縁組に関する世界の専門家の最新研究、出版物、研修、テクニカル支援プロジェクトを提供
- 国境を越えた直接的なケース管理 とアドボカシー活動を通じて、国際基準の実施と子どもの権利に関する意識喚起の最前線に常に立っている
現在、ジュネーブに本部を持ち、以下の40支部、120カ国以上の通信員を合わせ、世界160カ国以上のネットワークを持っています(2023年4月現在)。
提言全文「すべての子どもに公平なパーマネンシー保障を」
Equity in Permanency 「公平なパーマネンシー保障」―定義
公平なパーマネンシー保障とは、子どもの最善かつ長期的な利益を目指して、いかなる差別もなく、家族・親族による子どもの養育を優先的に検討するための、子どもの保護実践の原則を指す。この原則は、世界各地で子どもの保護にあたる人々が子どもの権利に基づくアプローチをとり、家庭養育に欠ける子どもが他の家族・親族に養育されるよう、あらゆる選択肢を検討するための方策と手順を推進することを目的とする。
なぜ、今「公平なパーマネンシー保障」が重要なのか?
子どもの保護に責任のある当局は、子どもが家族・親族による養育をうけ、養育者がケアの責任を果たせるよう支援を強化する努力を優先的に行うべきだと、世界各地の子どもの保護に関する専門家らは指摘している。
国境を越える子どもの国際的な移動は今に始まったことではないが、他国で家庭的養育のオプションを探すことについて、子どもの保護を担当する当局の知識・ツール・政治的意思はまだ育っていない。子どもの保護に携わる実践者は、明確なガイドラインなく管轄外で業務に当たるとすれば、子どものパーマネンシー保障に関する外国の法規制にどのように従うべきか迷うことだろう。人種や民族、国籍だけでは子どもの家族・親族が他国にいると判断する指標にならないが、これらの要素を考慮しないことは、子どものアイデンティティ、ルーツ、言語、文化的感覚を優先して養育オブションを検討するという、子どもの保護システムの機能を損なうことになる。
パーマネンシー保障における親族への公平なアクセスと意思決定は、子どもの権利の枠組みの一角を構成するものでなければならない。多国間で子どもの保護のためのケースワークを行う国際ネットワーク、ISSは、国境を越える家族の公平性を確保するために政府が優先すべき原則と実践を以下に提唱する。
7つの原則
1 子どもの権利 (CRC第3, 8, 20, 21, 30 条)
原則
安全で安定した家庭環境で生活すること、すべての決定が子どもの最善の利益を重視すること、子どもがアイデンティティを維持し、恒久的な養育の機会を含め、人生に影響を与え得る決定に参加することは子どもの権利である。
推奨される実践
明確なポリシーが子どもの権利に基づくアプローチを基盤とし、家庭的養育の機会が代替養育または養子縁組など他の恒久的な子どもの保護に優先して模索されること。子どもの人生に影響を及ぼし得る決定に子どもの声を反映させるために、あらゆる努力を行うこと。これには、最善の利益のアセスメント、世界のどこにいても家庭的生活、家族とつながる子どもの権利を判断し推進することが含まれる。外国での養育を考える時、関係性が異なる家族に委託することで法的効力の違いが発生することに留意すべきである。これには国境を越えるカファラ制度 の利用が含まれるが、それに限られるものではない。
2. 機会の平等 (CRC第9条第2項 )
原則
子どもの保護制度には、外国居住者を含む家族・親族が、親に養育されなくなった子どもの養育に関する決定に参加する、公平な機会が設けられるべきである。
推奨される実践
親に養育されない子どもの受け入れ先を検討する際、国境を越えて家族や親族に相談できるよう、可能な限りテクノロジーを活用した代替コミュニケーション手段を利用する。これにはプロの通訳サービスの利用や、現地専門職を活用して家族への支援体制を強化し、入国管理に関する事項について助言を受けることも含まれる。過去に児童養護施設で保護されたことがある場合には関係者全員に意見を聞き、インフォームドコンセントの機会が提供される。
3. 現地の専門職
原則
子どもの保護制度では、身元の確認や養育の可能性に関するアセスメントを行うために、外国在住の家族・親族と同じ国のソーシャルワーカーやパラプロフェッショナルを関与させるべきである。
推奨される実践
外国在住の家族・親族が特定され、親に養育されなくなった子どもの引き取りに関心を示した場合には、現地のソーシャルワーカーまたはパラプロフェッショナルにアセスメントを実施させ、入国管理や在留資格に見合う現地の支援サービスを利用する方法について助言してもらう。これには、受け入れ国で法的に可能な代替養育の選択肢の検討も含まれる。契約する機関は、公的に認証された専門機関で、子どもの保護支援に経験豊かな団体でなければならない。国家間のコミュニケーションは重要であり、1996年ハーグ児童保護条約 に定められるような既存の協力メカニズムが効果的に実行されるべきである。
4. 偏見をなくす (CRC第2条 )
原則
子どもの保護制度は、異なる制度・文化に属する海外在住の家族・親族による養育に関して、潜在的無意識的なバイアス(偏見)が主要な意思決定者に存在し得ることにも対処すべきである。
推奨される実践
あらゆるレベルの専門職に対し、制度的、個人的、暗黙的・無意識的バイアスに関する研修を推進すること。意思決定者は、制度的・歴史的慣行が、外国にいる家族や親族への子どもの委託にどのような影響をおよぼすかについて、意識を高めなければならない。
5. アイデンティティ (CRC第 8, 20条)
原則
子どもの保護制度では、養育先を決定する際に子どもの文化、ルーツ、言語、コミュニティ、伝統的な土地へのアクセスを優先すべきである。これは確固とした家族生活に対する子どもの権利を尊重し、彼らのアイデンティティを維持する機会を与えるものである。
推奨される実践
子どもの最善の利益になると判断される場合には、外国に住む家族・親族による子どもの養育の可能性を探ることも含め、子どもが家族や文化的なシステムの中にとどまることができるような、あらゆる養育の可能性を検討する。これは、国境を越えるカファラにも適用される。家族や親族の絆が強い場合は、国内よりも国外への子どもの委託が優先される場合もある。
6. 適切な支援計画
原則
子どもの保護制度は、子どもの受け入れ準備期間中の養育者に対する養育前支援や同居開始後の現地でのフォローアップおよび社会的資源へのアクセスを考慮した「移行計画」の策定を通じて、子どもが外国の家族・親族のもとで養育されるように常に準備すべきである。
推奨される実践
包括的な「移行計画」は、子どもの保護システムを通じて、現地の専門職、子どもの現在の養育者、および想定される養育者とともに策定する。「移行計画」には、養育者への同居前の支援、同居が決裂した場合に備えた送り出し側と受け入れ側の当局同士が合意した期限付きの緊急対応計画、旅行中の適切な同伴者の確保を含む、子どもを安全に新居に移動させるための明確な計画が含まれるべきである。また、さまざまな形態のケアが同じ法的条件と成長の機会を持つことを保証する、同居後の支援や家庭訪問に補助金をつけることについても考慮すべきである。
7. 説明責任
原則
子どもの保護制度は、さまざまな背景および状況下にある、家庭養育に欠ける子どもに関する情報収集、情報管理、報告システムを改善することで、既存の情報ギャップを解消し、継続的な底上げを図るべきである。
推奨される実践
情報収集システムの構築には、子ども・若者から知識や専門的意見を聴取する機会も含まれる。これには、子どもたちがいつ、どこで、国境を越えて当局の管轄外に移動したかを記録することも含まれる。国外へのカファラ制度による委託の多くが非公式な性質を持つことを考慮すると、国境を越えたデータ収集と効果的なモニタリングが最も重要である。
提言の全文はこちら(英語)
Global Webinar
このウェビナーでは、この原則の概要と、国境を越えて移動する子どもの家族とのつながりの重要性について、支部の事例や経験に基づいて紹介しました。※ウェビナーは全て英語で実施しました。近日、日本語訳付き動画を公開予定です。
開催日:3月21日(木) 11:00~12:00 ※日本時間
(10:00 HKT, 11:00 JST, 13:00 AEDT, 15:00 NZT)
with Zoom Webinar
開催日: 3月19日(火)23:00-24:00 ※日本時間
(14:00-15:00 GMT)
with Zoom Webinar