「出自を知る権利」とは?
日本を含む196の国と地域が批准する「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」では、子どもの「できる限りその父母を知る権利」(第7条)が明記されています。しかし、日本では養子の出自を知る権利が明文化されておらず、養子が出自を知りたいと願った際の支援体制は十分に整っていません。

ルーツ探しとは
ISSJの養子縁組後相談窓口には、「自分はなぜ養子縁組されたのだろうか?」「血のつながったきょうだいはいるのか?」「生みの親に会うことはできるのか?」といった養子当事者からの相談が寄せられます。しかし、生い立ちについて知りたいと願っても十分な情報が得られない場合があり、入手した情報がすべての疑問を解消するとは限りません。また、養子と生みの親が再会したとしても、それはゴールではなく、新たな関係構築の始まりです。新たな出会いによって、予期せぬ事実や展開に直面することもあるでしょう。
ルーツ探しは、「自分は何者なのか」「どこで、誰から、どのような経緯で生まれたのか」といった問いを通じて、自分の過去・現在・未来をつないでいくプロセスです。点在する情報をつなぎ合わせ、自分自身の記憶と記録を重ねる作業でもあります。また、発達過程やライフステージの変化によって、興味や関心、知りたいと願うことも変わっていきます。

なぜ、今なのでしょうか
ルーツ探しを始めるタイミングは人それぞれです。成人年齢を迎えたとき、婚姻したとき、妊娠・出産を経験したとき、子育てが落ち着いたときなど、様々な節目があります。また、養親との関係に悩んだとき、身近な人を失ったとき、学業や仕事に行き詰まりを感じたときなど、喪失感から出自に向き合うこともあります。
しかし、ルーツ探しは必ずしも望んだ結果に終わるとは限りません。思い描いていた結末に至らず、かえって喪失感が深まる可能性もあります。なぜ今、ルーツ探しを始めようとしているのか、そして今が本当にその時期なのか、自分自身に問いかけることが大切です。
何を知りたいのでしょうか ― ニーズの具現化
出自に関する情報には、養子自身の基礎情報に加えて、生み親の外見、健康状態、性格、趣味、嗜好、養子縁組に至った理由などが含まれます。養子縁組の背景には、予期せぬ事実や複雑な事情がある場合もあります。ただ、これらの情報がすべて保管されているとは限らず、思い通りの形で残っているとも限りません。また、生みの親のプライバシー保護の観点から、養子自身に開示されない情報もあります。知ることは、想像や空想から現実へと向き合うことを意味します。情報を一つひとつつなぎ合わせ、理解し、受け止めるには多大なエネルギーが必要です。
養子縁組の理由を知りたいという思いと、生みの親や家族と会いたいという思いは異なるものです。それぞれのニーズに合ったアプローチを考えることが重要です。何をどこまで、どのように知りたいのか、自分自身と対話し、明確にしていきましょう。

感情を制御するために
「ルーツ探しはジェットコースターのようだ」と表現する人もいます。思いがけない事実に直面したり、ルーツ探しの終着点が見えずに困惑したり、焦燥感にかられることがあるかもしれません。そうしたとき、感情を吐露し、共有できる家族、パートナー、友人がいると安心です。第三者であるソーシャルワーカーやカウンセラーに話すことも、気持ちを整理する一助になるでしょう。
家族関係への影響
養親への配慮から、ルーツ探しを内密に進める人も少なくありません。一方で、養親に相談した結果、期待した答えが得られなかったり、逆に思いがけない情報を手にすることもあります。
また、養子にきょうだいがいる場合、一人は生みの親と再会できたものの、もう一人は十分な情報が得られないといったケースもあります。こうした情報の差が家族関係に影響を及ぼすこともあります。

交流・再会を望むにあたって
生みの親や家族と連絡が取れたとき、どのような関係を築きたいと考えていますか?交流を始めるにあたっては、生みの親やその家族の状況にも配慮することが必要です。
生みの親が、再婚相手や後から生まれた子どもに養子縁組の事実を伝えていない場合もあります。また、連絡をしても返信がない、交流を望まないといった可能性も考え、心の準備をしておくことが大切です。
交流を始めた養子、生みの親や親族には、再会への期待、高揚、緊張、不安、怒りといったさまざまな感情が押し寄せます。お互いに気持ちを整理する時間を持ちながら、安心と安全が保たれた距離感を大切にすることが求められます。実際に再会した後、不安を覚えたり、困惑したり、期待外れに感じたりすることもあるでしょう。生みの親の子どもは、突然現れた血を分けたきょうだいに戸惑い、養子に親の愛情を奪われるのではないかという不安を抱くかもしれません。こうした感情は年齢や性別を問わず起こり得るため、新たな関係を築くには時間とお互いへの理解と配慮が必要です。
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