『日本で暮らす難民・難民申請者の質的調査-生きづらさを超えて−』(日本財団2018年度助成事業)を公開しました。
この調査では、日本で暮らす8人の難民にインタビューを行い、生きづらさをもたらす要因について考察しました。厳しい状況におかれながらも社会を責めることなく、前を向き、強く生きようとする生の声が収められています。
調査では、主に以下について語られています。(インタビューは日本語と母語で行われました。)
- 生活上の困難
「私が言えるのは、日本での生活は、決して容易ではありません。でも、勇気を持って当たれば、解決することができます。ええ、勇気があれば。」
- スティグマ
「大体は誰にも話さない。」
- 社会関係
「これ以上ストレスを作りたくないし、自分について説明したくない。」
「彼ら(日本人)は自分の問題について誰とも共有しない。みんな『頑張る』。自分自身で強くなろうとしている。」
- 社会に溶け込む努力・日本人との交流
「私は日本語を勉強しようとしていて、日本人のように話せるようになりたいです。」
- 働き・他者の役に立つということ
「皆が私に与えてくれるけど、私は何も与えることができない。私の時間でさえも。彼らが私から何か欲しいと思っているわけではないと知っているけれど、私は恥ずかしく感じる…。」
- 難民としての経験・現実・希望
「ここにきてからたくさんのことについて考えるたくさんの時間ができ、後悔、感情、いろいろな感情に気付きました。」
調査を通して浮き彫りとなったのは、学び、働き、自分の足で立ちたいという強い意思を持つ「難民」の姿でした。「多くの困難を抱え、脆弱で支援を必要としている人」という難民のイメージは、必ずしも現実と一致していません。
インタビューで明らかになった生きづらさの要因は、次のように整理されます。
- 他者との関係性:職場・学校・近所などでの嫌がらせ、好奇心にさらされること、エスニック・コミュニティへの警戒
- スティグマ:経済的に自立できないこと、夫がいないこと、(難民であること)
- 認知の傾向:周囲の環境と自分自身を観察し、理解しようとする視点
- 心理的不安:難民申請のプロセス、トラウマ、家族との別離、言葉、社会システムの知識と理解
一方、インタビューでは、生きづらさへの対応として、複層的な人間関係を築いていることが明らかになりました。それは、難しい人間関係への予防線でもあり、補完するものでもあります。心の中に誰とも分かち合わない核のようなものを持ちつつも、慎重に相手を選びながら共有できる範囲を変えていました。
難民の複層的な関係性
すべての人とすべてを分かち合うわけではないけれど、自分で決めた一定程度の範囲で安心できる交友関係を築くことは、十分に生きづらさを補うものであり、社会への適応を助けていると考えられます。
調査に協力してくれた難民たちは、困難ばかりに目を向けて自分や社会を責めるのではなく、ある種の諦めを感じながらも前へ向かっていこうとする力を持っています。自分の持てる力を社会で活かし、人を助けられる存在になることが自己実現であると考え、そのために歩み続けることが、自身に力を与えます。日本に暮らすこととなった背景や経験は人生の荷物としてもち続け、それでも、自分の人生は自分が変え、学び、働き、よりよい人生を生きたいというエネルギーが、言葉の端々から感じられました。
(報告書PDFリンクはこちら、※インタビュー結果は、第2章10ページから。)